知立に息づく雛文化

3月3日は桃の節句。愛知県知立市に今も息づく、雛(ひな)まつり文化を紹介します。

焼き印残る木型 神谷武廣さん宅

【焼き印が残る木型】

 知立市の神谷武廣さん(87)宅には、明治末期から昭和初期に作られたとみられる「おこしものの木型」が残されています。鯛やふくろうなどの縁起物が彫り込まれており、長年使い込まれてきたことがうかがえます。
 「おこしもの」は、尾張三河地方に伝わる桃の節句のお供えもの。米粉を練った生地を木型に詰め込んでかたどる素朴なお菓子です。
 かつては、近所や親せきがそれぞれの家の木型を持ち寄って一緒に作り、木型の裏側に屋号や名前など所有者を記す焼き印を押したものも多かったそうですが、今では珍しい存在となっています。 
 武廣さん宅の木型にも、明治生まれの父親の名「勝」を記した焼き印が残っています。
 「(おこしものは)男の子も楽しみだった。昔はよく作ってもらったもんだ。うまかったぞ」と、武廣さん。妻の島子さん(84)は、「庭のクチナシで色を着けたり。熱湯で練るから手が真っ赤になったけど、熱くないとおいしくないから、我慢したものよ」と、当時を懐かしんでいました。

【おこしものの思い出を語る神谷夫妻】

兄の手仕事守る 佐合麻百合さん

 佐合麻百合さんは、人形着付け師として腕を振るった兄・文武さんの作品を守り続けています。
 4年前、文武さんが78歳で亡くなり人形作りは途絶えましたが、親の代から続く人形製造の店「佐合人形」には、今も修理の依頼が寄せられます。
 幼い頃から人形作りを手伝ってきたという麻百合さん。「修理は、基本的に兄の作品に限っています。人形師によって作り方が違いますし、お客さまが長年大切にされてきたものを簡単に触ることはできません。でも、やっぱり飾ってほしいから」と言い、作業を始める前には人形に一礼。「衣装を開けさせていただきます」と心の中で声をかけるそうです。
 雛人形を飾る機会が減りつつある昨今、麻百合さんは「お部屋に春の花を飾るように、お雛さまを並べて、季節の移り変わりを味わってもらえたら」と、ほほ笑みます。

【兄の作品の修理を手かける麻百合さん】

4世代をつなぐおこしもの作り

 おこしもの作りは、家族共通の思い出づくり」と、清水隆子さん(81)。
 「孫が生まれた30年ほど前から、家族みんなで集まって作るようになりました。毎年200枚ほど作ります。今年は、子どもからひ孫まで18人が集まります」と目を細めます。
 祖母から受け継いだという木型は、福助や俵、飛行船などが彫り込まれた約20枚。
 木型を囲むひとときが、清水家の春の風物詩となって、家族の時間をつないでいます。

【節句を大切にと清水さん】

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