知立の歴史ぶらり探訪・翁のいざない

第19話(後編) 西行法師の歌碑

 西行がみちのくを目指した頃は、異常気象が数多く発生した時代。目の当たりにした八橋が、折からの五月雨で「沼の八橋」だったのも無理からぬことです。水底に沈んだ杜若(かきつばた)の花と、わが身を重ね合わせて作歌することは容易だったのに、西行はあえて避けたのではないでしょうか?
 代わりに西行が選んだのは、五七五七七の中に水に関する文字を一つずつ配すること。「五月雨は」の雨、「原野の沢に」の沢、「水みちて」の水、「いつく三河の」の河、「ぬまの八橋」の沼。業平の折句に着想を得てのことと考えられますが、視覚的に、写真的に「沼の八橋」を表現することに見事成功。漢数字の「五月雨は」の五、「いつく三河の」の三、「ぬまの八橋」の八をバランスよく置いたのにも脱帽です!
 背景を読み解いてみるとさまざまな工夫が凝らされていて、その謎解きが楽しいですね。坂之上九門流の解釈はいかがでしょうか、名答? 迷答?

(坂之上九門)

【筆者が「沼の八橋」と推測する場所】

(知立くらしのニュース 2014.05.17 掲載)

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