知立の歴史ぶらり探訪・翁のいざない

第7話(後編) 左馬の茶碗物語

 縁日で販売されているなら、市内の陶磁器店にもあるはず。知立城跡近くの老舗を訪問すると、目の前に(ひだり)(うま)の茶碗が! 灯台下暗し、とはこのこと。店主から、縁起物になった理由を聞きながら、思い出したのは歌川廣重の浮世絵〈(しゅ)()(うま)(いち)〉。池鯉鮒の初夏を彩る大催事・馬市を描いた傑作ですが、人々と馬たちとの長い結びつきを見事に表しています。
 明治になって宿駅制度の廃止と鉄道の普及が加速。馬たちの活躍場所が少なくなっても、身近な存在であった馬たちへの思いは、根強く人々の心の中に残っていたことでしょう。
 そんなとき、弘法さんの縁日に登場したのが左馬の茶碗! 縁起物として売れ筋商品になったことは想像に(なん)なくありません。
 今春3月、赤馬が施された〈平成版左馬茶碗〉が発売。この茶碗も、ゆっくりと歴史を刻みながら、また世界のどこかの空港で話題に上ることでしょう。今度もパリかな、それともローマ、ニューヨーク?

(坂之上九門)

【軽トラ&手作り市で売られている平成の左馬の茶碗】

(知立くらしのニュース 2012.5.19 掲載)

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